ヒキガエルのグラちゃんの冬越しは、発見者の経験値とお財布事情により、野生の姿で行ってもらう事となった。
しかし、カエルが選んだ冬眠場所は残念ながら譲る事は出来ない。そこで、安全に、かつお互いに妥協できそうな冬眠場所を用意することにした。
ヒキガエルを発見した場所は、土などの園芸資材の他、鍬やスコップなど、怪我に繋がりそうなものも置いてある。この石の後ろがそうだ。
少し位置はズレるが、反対側のここなら鍬を振りかざす事もないし、物も置かない。ここに冬眠のためのカエルハウスを用意することにした。
ハウスといっても、祖父母宅から良さげなサイズの平鉢を頂戴し、土を入れ、カエルの置き物を置いただけの簡易宿舎。
カエルの置き物は、カエルが居ることを知らない私以外の人間への警告と、最悪、春になってカエルの存在を忘れて居るかもしれない自分への注意喚起のつもり。
生涯をこの小さな区画で過ごすわけではないのだから、ゲストハウスに長期滞在するくらいの感覚だ。ドミトリーでないだけでもリラックス出来るし、土袋にいつ潰されるか分からない最初の場所よりはいくばくかマシだと思う。
早速、完成したばかりの宿舎のレイアウトが崩れる。柔らかくした土の中にもぞもぞ入ってほしかったが、カエルの置き物の下に潜ろうとするグラちゃん。
仲間だと勘違いした、なんて事はいくらなんでもないだろう。
お気に召さなかったか出てこようとする。しかし、置き物のカエルが握っている蓮の華が引っかかり、グラちゃんの背中に食い込んでいる。これは危険だ。
それに、軽い置き物は衝撃で簡単に倒れてしまう。
お次は真っ直ぐ進んですっぽり。どう見てもサイズが合っていないが、グラちゃん的には良い屋根を見つけたつもりかもしれない。ややリラックスした表情が見て取れる。
これは冬眠に入る態勢か、ただの休憩か。
こんなにじっくりとカエルと関わったのが初めてで、カエルの行動の意味が分からない。日中だから日差しよけのつもりかも。
しばらくすると這い出てきた。思ったほどしっくりこなかったようだ。
入るのは簡単でも、出るのは大変。「行きはよいよい 帰りは怖い〜」、とうりゃんせ状態だ。やはりこのサイズでは無理があると悟ったことだろう。
グラちゃんがスッポリ入れて、屋根代わりになりそうなものを、と横にあった種苗カップに入れてみた。
やらされてる感が出ているし、これじゃないんだよね、と言いたげだ。
ここまでの短い時間グラちゃんを見ていて気付いた事は、周囲を包み込むような状態を求めているのでは?ということ。
その気持ちは分からなくもない。掛け布団の左右と下を内側に折り曲げて芋虫のように包まるのは安心感がある。
それとこれとは話が違うって?
まあ、それは寒さ対策であったり、外敵からの防衛であったり、日差しよけだったり。身を潜められる環境でないとおちおち冬眠もしていられない、という事だと思う。
だから、発見当時の互いを支え合うように三角に置かれた土袋の空間は、全てを満たした正に冬眠に最適な場所だったのだ、と。
安心できるように遮光性のある土袋を追加することにしたところ。
新築のゲストハウスが、年季の入った古びた宿になってしまった。高度経済成長期に興隆し、今は閑古鳥が鳴いている、もしくは廃墟と化した大型宿泊施設の寂びれ感も漂っている。
防衛と風よけ、空気の循環と日差しよけ、そして包まれ感。グラちゃんの希望を満たすには見た目より実用性の方が大事。
このあと無事、土をほりほりしながら潜ったであろうグラちゃんを確認した。
これでヒキガエルのグラちゃんの冬眠準備は整ったかのように思えたが、そう簡単に人間の思うようには事は運ばないらしい。
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